大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和41年(ツ)17号 判決

上告人・被控訴人・原告 山原一子

訴訟代理人 飯島安三郎

被上告人・控訴人・被告 五十幡直行

右補助参加人 本別金融合名会社 外一名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人飯島安三郎の上告理由第一点について。

論旨は、仮登記上の地位が譲渡されれば、実体法上の登記義務者である地位を喪失するのみならず同時に登記手続上の登記義務者の地位も喪失するから、原判決が「仮登記上の地位が譲渡されることにより抹消登記義務者である地位を失うと云うが、それは実体法上の登記義務者である地位を喪失すると云うだけであつて依然登記手続法上の登記義務者であることに変りはない」として、上告人の被上告人に対する賃借権設定仮登記の抹消登記手続を求める本訴請求を排斥したのは、判決に影響を及ぼすべき法令解釈の誤りがあるというにある。

然し乍ら、賃借権設定仮登記の仮登記名義人は、その仮登記上の権利を登記簿上第三者に移転し、その権利移転の附記登記を経た後にあつても、右第三者との間で該権利移転を否認して附記登記の抹消を求める等再び自己が右仮登記上の権利を回復することも可能である以上、なお、登記簿上に登記名義人としての独立した利害関係を有するというべきである。そして、仮登記名義人からすれば、本件の如く賃借権設定行為の無効を理由として、言い換えれば仮登記名義人との間で既に生じている登記抹消原因を理由として自己に対し確定力の及び得ない附記登記名義人に対する訴訟の結果、右仮登記が抹消されることは、前記登記簿上に有する独立の利益を害されることとなるので、かかる場合仮登記名義人は依然登記手続上の抹消登記義務者たる地位を失うものではないと解すべきである。されば、原判決が、仮登記とその仮登記上の地位の移転に伴う権利移転の附記登記とをそれぞれ別個独立の登記と解し、本件無効な仮登記の抹消登記手続と、その権利移転の附記登記の抹消登記手続との関係を数段階にわたる無効な所有権移転登記の抹消登記手続の関係と同一にみて、本件仮登記の抹消登記手続を求めるには、その仮登記名義人である被上告人の補助参加人らを当事者として訴求することが必要であり、被上告人に対しこれが抹消登記手続を求めることができないとして、上告人のその点の請求を棄却したのは正当であつて、所論法令解釈の誤りはない。

同第二点について。

論旨は要するに、被上告人の補助参加人らが本件訴訟に補助参加し、その攻撃防禦を尽している以上、被上告人との間で本件仮登記が抹消されることがあつても、被上告補助参加人の前記仮登記名義人としての利害関係を害することはないから、本件の場合は、なお上告人の被上告人に対する本件仮登記の抹消登記手続請求をも認容すべきであつて、これに反する原判決には判決に影響を及ぼすべき法令解釈の誤りがあるというに帰すると解せられる。

然し乍ら、登記手続上の抹消登記義務者を何人にすべきか、従つて、また何人を相手にこれを訴求すべきかということは、専ら登記実体法上の問題として考えるべき事柄であつて、右登記義務者がたまたま訴訟に補助参加したからといつて、登記義務者でない者がその登記義務を持つに至る(当事者適格を帯びる)ということはないのであるから、所論の場合においても原判決が被上告人には本件仮登記の抹消登記手続義務が存しないと判断したことに法令解釈の誤りはない。

よつて上告論旨はいずれも理由がないので民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加納駿平 裁判官 伊藤淳吉 裁判官 潮久郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例